公開日 2024年9月5日
「困ったときの神頼み」は、誰にでも経験のあることだと思いますが、かつて神頼みがごくごく自然の行為として行われていました。その一端を示すのが「人面墨画(じんめんぼくが)土器」です。名前の通り、墨で顔が描かれている土器で、約1300年前の奈良時代に盛んだった、まじないの道具です。
人面墨画土器は、川辺や井戸で見つかることが多く、土器に願掛けをして水に流す、言い換えると違う世界へ送るという意味があったと考えられます。ただその顔をめぐっては、大きく二つの説があります。一つは悪い神様の顔を描いたもので、自分たちが暮らす地域に災いをもたらさないよう、別の場所へ送ったという解釈です。もう一つが願掛けをした本人、つまり人間の顔で、病気など自分に降りかかった不幸に対し土器を身代わりにして、厄を払っていたと考える説です。前者は地域全体、後者は個人が対象のまじないという違いがあり、どちらの説が正しいのか意見は分かれています。面白いのは描かれるその顔で、一般的に怒ったような険しい表情が多いものの、それ以外のいろいろな表情をした土器もあります。
歴史資料館の特集展示コーナーでは、安堂遺跡の井戸から見つかった人面墨画土器を3点紹介しています。そのうちの一つは、口を開けて笑っているようにも、眉を寄せて睨んでいるようにも見えます。この顔は神様なのか人なのか、また笑顔なのか怒り顔なのか? ぜひ実物と「にらめっこ」しながら考えてみてください。
▲安堂遺跡から見つかった人面墨画土器
(2021年4月号掲載)